雪人
 瞬間、赤い絨毯が裂け、地面から尖った岩が連続して突き出し、連なりながらミューレへと迫った。
 ドゴンドゴンと轟いて、剥き出した岩が遅く迫ってくるだけの業はミューレにとって、躱すのはごく簡単だった。
 ミューレは横に素早くステップして、10m離れた場所まで移動した。横目に移るのは先程いた場所に尖った岩が聳え立っている。
「今のが技? ちゃちな攻撃ね」
 馬鹿にしたようにミューレが鼻で笑った。
 それを聞いたミフレの口元が楽しげに弧を描いたのだ。
 止まったかのように思えた突き出す岩がミューレを追い掛けるように、地面から音を鳴らしながら連続して突起していく。
 当然の如く、ミューレは迫ってくるだけ岩を避ける。後へ、横へ、スピードの遅い穿つ岩をミューレは避け続けた。
「芸が無いわ――!?」
 芸が無いわねと言うとしたミューレが驚くようにして言葉を飲み込んだ。
 ミューレの周りには岩、岩、岩。岩だけなのだ。
 赤い絨毯で彩られた広間は、いつの間にか岩の密林と化していたのだった。
「あんた……これをするためにあの業を」
 周りを囲む岩の密林をミューレは見回した。小さな石ころや茶色い土が地面に散乱している。階段もミフレの業でわずかに傾いていた。
 言ってしまえば、ここが王宮の中だと信じることが出来ない汚れようだ。
「仮にもここは地国の王宮よ、こんなこと普通するかしら」
 信じられない、というニュアンスを混じえた口調でミューレは、呆れた表情を見せた。手に持つ鎌の柄を握り締める。
「この地国を影で支配していた奴とは、思えない言葉だな」
 無造作かつ乱雑に無数に散らばる岩の何処からか、ミフレの愉しげな声が聞こえてきた。
「隠れたつもりみたいだけど、無駄な努力ね」
 ミューレは躰を捻ねり反動を付けて生まれた遠心力を、鎌に乗せ近くにある岩を横に斬りつけた。
 バコンッと岩が派手に砕け、岩片が辺りに飛び散った。
「残念、アタシはそこにいないよ」
「そんなことわかってるわ。いい気になるんじゃないわよ」
 ヒクヒクと眉が苛立ち、ミューレの表情に残酷さが表れはじめた。
 空いてる手に魔力を込め、地面に手を付けた。土で出来た鎌がミューレの空いた手に納まる。
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