雪人
 ただ、ミューレは少し気掛かりを覚えた。ミフレの言ったことが妙に頭の中から離れない。自分だけがブロンド髪の姿で、世界を歩き回っていると思っていたのに、他にも外で見たということが信じられなかった。
 ブロンド髪を見たことがあるなら、それは――
「私の先天属性をあなた知っているわね」
 ミフレに確認するように尋ねた。
「さっき思い出したから知ってるよ。木属性だろ」
 ミフレはさらに言葉を続ける。
「ルイと女の子に初めて会った時はびっくりしたなあ、アタシ。だって百年以上も沈黙を守る木国の人を初めて見たからな。それでまた、今日あんたと出会ったから二回目だ」
「お喋りね。そのルイって人と話してみたいわ」
「アタシたちに勝てたらな」とミフレは笑い声で言う。
 ミューレは挑戦的な言葉を言うミフレに、こっちも似たような言葉を掛けようとした瞬間、空気が変わった。
 ピリピリと張り詰めたような空気が一二階ホールに広がる。
 次の瞬間、一つの大きな岩が砕け飛んだのだった。
 砕け飛んだ岩片がつぶてとなって勢いよくミューレに向かっていく。
 しかしそれだけで終わらなかった。更に残っていた全部の大きな岩が順々に砕け飛び、ミューレへと向かっていったのだ。
 だが、ミューレの表情に焦りは全く無い。冷静に向かってくるつぶて岩を見据えて、両手に納まっている鎌を交差させて三日月型の刃を地面に突き刺し固定する。
 そして口を開いた。
「アースウォール」
 魔法名を唱えたと同時に地面から分厚い石の壁がミューレを中心にして囲んだ。
 つぶて岩がカツカツと空かしたような音を石の壁に当てて絶え間なく鳴らし続ける。
 段々音が鳴らなくなり消えていった。
 ミューレは地面に突き刺した二つの鎌を手に持ち、魔法を解除した。グニャリと崩れるようにして石の壁が地面に落ちていく。開けた視界には散らばっている砂利や石に、砕けた跡の岩だけでミフレの姿が消えていた。
「何処に……」
 ミューレは首を巡らして辺りを見回した。周囲にはミフレの姿が見当たらない。
 しかし、次の瞬間、ミューレの身体に電流を浴びせられたような衝撃が背中に走った。手に納めた一つの鎌が衝撃で手元から離れる。
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