雪人
 突然、ミューレの身体からとてつもない魔力が奔流され、うねりながら渦を巻くようにして発散されている。
 俯いていた顔を上げて、ミューレは焼けるような激痛に顔を歪ませながらも、憎らしい瞳を二人に向けた。魔力が込められた水の矢は両肩に突き刺さったままだ。
「負けるわけにはいかないのよ! ……私の目的のためには……」
 自分自身に言い聞かせるように、最後の方は小さくて聞き取ることの出来ない声でつぶやく。
「負けるわけにはいかないだと? お前死にたいのか! 今出してる力……生命力削ってまでして!」
 怒りの表情をいっぱいにしてミフレが怒鳴り散らした。肩を上下させ息を切らしてまでの大きな声で。
「今すぐやめろ!」
「止めるわけ無いでしょ! もう終わりよ!」
 ミューレのこの言葉が引き金となり、奔流される魔力がさらに激しくなって生きているかのようにうねりながら線を無数に、広場へと伸びていく。
 ミューレの意志の許を外れ、いや、もともと操ることのできなかった魔力は広場に無造作に伸びていった。
 一二階ホールの壁が魔力の余波にビリビリと音を鳴らす。
 それらを目の当たりにしたミフレは、その魔力に寒気を覚えるも慌てて隣にいるエレミールに叫んだ。
「あいつを止めてくれ!」死なない程度に気絶させるなり何なりなんとかしてくれ! 早く!」
 緊迫した表情のミフレをエレミールは驚くようにして見たが、事態が事態なだけ気を引き締めた表情で力強く頷く。
「わかったわ! 死なない程度に痛めつけてあげるからね」
 腰に掛けていた魔誓具の水弓を素早くとって横向きの構えをし、魔力で作った水の矢を弦に掛けた。そして、右手を力一杯蓄めていくようにして引こうとした。
 が、しかし、当然視界が暗転し、痛みと何が起こったのかわけが分からず思考がパニックになった。でも、それは一瞬のことで持ち前冷静さを取り戻す。
 エレミールは不可避な圧力に、地面に叩きつけられるようにひれ伏されたのだった。
「くっ……! いったい何が……?」
 動かない身体で目だけを動かし、見れる範囲を見回す。
 目に映ったのは、同じように地面にひれ伏されたミフレの姿だ。そして目が合う。
「エミ、ルちゃん。やつの重力、だ」
 以外にも冷静なミフレが口を苦しそうに開き、何が起こったか伝えた。
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