雪人
「やつを、気絶させ、なければ、これはと、けない、んだ」
 ミフレの途切れ途切れな言葉をエレミールが納得したように頷く。
 この重力は発動元であるミューレを気絶させれば止まるだろう。
 そのためには何をすればいいのか。
 そう考えた後、直ぐにエレミールに一つの案が浮かび上がった。
 成功するか分からないが、エレミールはこの状況を打破するべく、賭けともとれる秘策に出るのしかないのだった。
 エレミールは、初めての挑戦に気持ちを落ち着けるため深呼吸する。
 相変わらず上から圧倒的な重圧がかかり、身動きがとれない状態で、ミューレの姿を探した。
 ガシャンと、シャンデリアが地面に落ち、割られた音がエレミールの耳に入ってきた。
 どうやら、天井辺りまで重圧圏に入ったらしい。その影響で落ちたようだった。
(危なかったあ)
 エレミールの視界の近くにもシャンデリアが落ち、そのピカピカした破片が地面に散らばっている。もし当たっていれば、今頃血塗れになっていただろう。
 そう思うと、エレミールはぞっとした。
 瞳を動かし、再びミューレを探す。
 すると、視界の端にミューレの姿が映った。
 傷を負った両肩を抱き膝を地面に付け、顔は俯いて表情を伺うことはできない。
 ミューレの血が生々しく傷口から地面に垂れていく。地面に溜まる血の量はさっきよりも増えていた。
(まずいわねえ。このままだと、出血多量で死ぬんじゃないかしら)
 その方が楽なんだけど、と思うも、ミフレのあの表情がエレミールの頭の中に残っていた。
(仕方ないわねえ、出来る限りのことはしてみるわ、ミフレちゃん)
 エレミールは、視界に映るミューレを捉えるようにして見つめた。表情は引き締まっている。
(お願い! 出来て!)
 念じるようにして、ミューレを見つめながらエレミールの額に汗の玉が浮かぶ。
(お願い……!)
 この思いに答えるかのようにして、そして、重圧が嘘のように消えていった。
 いったいこの間に重力が消えるほどの何が起きたのだろうか。
 ミフレがうつ伏せの姿勢から起き上がり、おぼつかない足取りでエレミールの許まで歩いて行く。
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