雪人
 王室がある六階にルイは辿り着き、王女の部屋の前まで来ていた。
 ここまで来るのに、やはり誰ともルイは会わなかった。
 扉越しから感じられるのは、狂喜の交じった魔力が隙間から漏れていた。
 臆することなく、ルイは扉を開けた。
 開けた先には茶髪の紳士風男性と地国現王女のレミィ=ミュウル=シィーダリスが並んで佇んでいた。
「よくここまで来ましたね、疾風の銀狼さん、いえ、ルイくんとでも言っときましょうか。私はソクラサと申します」
 クックックと狂喜じみた笑みをソクラサは零した。紳士なことに、執事みたいな挨拶の仕方をする。
 隣に立っているレミィは虚ろな瞳でルイを見ていた。
「それで、隣にいる王女を人質にして俺を嬲り殺したいのか? だからいるんだろ、レミィ=ミュウル=シィーダリスが」
 侮蔑の意味を込めて冷めた瞳をソクラサに向けて、ルイは吐き捨てるように言った。
 クックックとまたしても不気味な笑いを零し、ソクラサが口端を吊り上げた。
「その通り、と言いたいところですが、私はそこまで卑怯な仕方はしないですよ。私としては組織内での株を上げる意味でも正々堂々戦わないといけないのですよ」
「この城を牛耳ってた奴がよく言うよな」
 皮肉な言い方でルイは言った。レミィ=ミュウル=シィーダリスに視線向けると、能面な顔でこっちを見ている。その顔は一切の感情を感じられない、そして、意志も全くないことを彼女の表情が物語っていた。
「私だって不本意ですよ、こんな城を乗っ取れなんて言われたときはね。でも、まさかあなたがここに来るとは思ってもみなかったですよ」
 ソクラサの声は少しだけ上ずっていた。感情が高まっているからだろう。
「で、何処でやるんだ? まさかここじゃないだろうな?」
「ここではないですよ。城のてっぺんでしましょうか、誰も邪魔が入らないように。それと、出てきなさい、クーパ」
 ソクラサが呼ぶと、彼の隣に淡い光が瞬き、光の中からスコップを片手に持った体長70センチぐらいのモグラが現れた。光は徐々に輝きを失い消えていった。
 ルイは奇異な瞳を出てきたモグラに向けた。
「地の下級精霊か……精霊になってまだ150年ってとこかな」
 ルイのこの言葉にソクラサは驚いたように眉を上げた。


< 187 / 216 >

この作品をシェア

pagetop