雪人
「シュレリア、ついてこい」
 そう言ってクーパが開け放たれている窓からバルコニー付きのテラスの縁に飛び乗り、そこから何の躊躇もなく高い場所から飛び降りた。高さはビルの九階から飛び降りるようなものだろう。
「シュレリア、行ってこい。死ぬなよ」
 ルイの気遣った優しさに満面の笑みでシュレリアが答えた。
「私が死ぬなんて有り得ないよ〜」
 シュレリアはバタバタと翼を羽ばたかせて、バルコニーから外に出ると頭の方から急降下して、視界から消えていった。
「あなたも精霊と契約していたのですか、なるほど、道理で精霊を見たときの反応がなかったのかわかりましたよ」
 燕尾服を身に纏ったソクラサがテラスまで歩いていく。
 一見したソクラサの印象は紳士的で、相手に敵意を抱かせない雰囲気がある感じなのだが。
 しかし、内にある凶悪な殺意欲、自己顕示欲などが普通の人より遥に強かった。
 だから、レッドクロスという組織に入ったのかもしれない。自分の欲を満たせるという理由で。
「お前、レッドクロスについてどこまで知ってる?」
 兼ねてから、この部屋に来る前から聞きたかったことを、大胆にも背後を見せているソクラサにルイが訊ねた。
 素直に本当のことを言わないかもしれないと思っていても、ルイには聞かない訳にはいかなかった。
「私は組織については全くと言っていいほど知らないですよ。何しろ幹部クラスではないですから。ただ、幹部のバーバリティーナイト(残虐行為騎士団)の構成人数だけ教えましょう、九人です」
 そう言って、ソクラサが振り返った。
「……本部の場所は?」
 ルイは少し思案して訊ねた。返ってくる答えは大体分かっていた。
「知らないですね、常に司令を与えられるのは幹部から伝達です。本部のことを知っているのは幹部クラスですよ」
 思っていた通りの答えがやはり返ってきた。
 ルイはこれで最後の質問をする。
「どうして、素直に喋ったんだよ?」
 ソクラサが愉快そうに笑ってみせた。どういう心境の変化からのかはわからない。
「さあ、私にもわからないですよ。気付いたら話していましたからそれでは私はてっぺんで待ってます」
 そう言うないなや、すぐに跳躍してバルコニーから消えていった。
 ルイもバルコニーまで行き、後を追うように跳んだ。
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