雪人
「謝るならちゃんと謝りやがれ! もういい、勝負だ!」
 茶色い肌の顔に朱が滲み出ているクーパは怒って乱暴にスコップの先端をシュレリアに向けた。スコップには所々傷がついているあたり、中々に使い込んでいるようだ。
 怒っているクーパとは対照的にシュレリアは、クリクリした愛らしい瞳をまん丸にして不思議そうにしている。
「わたしと戦うと〜クーパ負けるよ〜。だってね〜クーパ地属性でわたし風属性だもん」
 シュレリアの言ったことはもっともだった。
 地属性の弱点属性は風属性。
 風属性の抵抗属性は地属性。
 更に加えればクーパは下級精霊で、シュレリアは中級精霊。使える魔法も制限されていて、精霊は自分の属性の魔法しか使えない。 ここまでの不利な条件が重なっていた。
 それにもかかわらずクーパがシュレリアと戦おうとする意気込みは凄いが、全くもって無謀もいいところである。
「ふっ、この俺が戦う前から――おわっ!」
 格好よく鼻を鳴らしたクーパが不意に浮かび上がった。身体が小さな渦を巻いている風に持ち上げられている。
 狼狽した表情でクーパはシュレリアを見た。
「ひ、卑怯だぞ! スコップ落ちたじゃねえか、シュレリア! 正々堂々と戦いやがれ!」
 身体が持ち上がった時にスコップを落としたらしく、クーパはスコップに視線を落として慌てたように言った。比較的小さい手を必死にバタバタさせて、風から出ようと藻掻いている。
 クーパが無駄な努力をしているのを見上げて見ていたシュレリアは、翼を上下にはばたかせて、諦めの悪いモグラの許まで飛翔した。
「魔法使えば〜?」
「バカやろう! 俺がお前と魔法合戦したところで勝負みえてるだろが! スコップがなきゃお前をぶっ飛ばせれねえ、いい加減この風を解きやがれ!」
「うん、いいよ〜」
「え? うわっ!」
 風を解かれたクーパが足から着地できずに顔面から地面に着地した。
 顔の跡がくっきり残るほどめり込んだクーパはのそのそと立ち上がった。
「絶対ぶっ飛ばす!」
 そう言ってスコップの落ちている所まで歩いていくクーパの身体に風が巻き付いて再びシュレリアの許まで来させられた。
「畜生ッ! 風を解きやがれ! 尋常に俺と勝負しやがれ!」
「いいよ〜」
 そう言ってシュレリアは風を解いて、クーパがまた地面にめり込んだ。
< 194 / 216 >

この作品をシェア

pagetop