雪人
 それから幾度となく、シュレリアに地面に落とされたり風で上空に連れてこられたりと、これらの行程をクーパは受け続けた。顔はパンパンに腫れ上がり、息遣いは荒く、肩は上下に呼吸している。 最初の勢いは何処へいったのやら、クーパはしんどそうに口を開いた。
「この、やろう……卑怯、だ、ぞ」
 戦闘したわけでもなく、一方的なリンチを受けたクーパは、息も絶え絶えに言ったのだ。
 それをニマニマと笑って見ているシュレリアはやはり、子供特有の無邪気な残酷さの現れであろう。
「クーパ大丈夫〜?」
「おま、えだいじょ、うぶにみえる、のか、この姿をみ、て」
「ううん、見えない〜」
 シュレリアのこの発言にガックリとクーパは頭をうなだれた。怒る気にもなれないらしい。
「ね〜クーパ。どうしてあんな人と契約したの〜?」
「お前なんかに言うかよ」
 ようやくクーパは呂律がまわるぐらいの体力が回復してきたようだった。生意気な言い草も戻ってきた。
「ふ〜ん、ね〜契約破棄すれば〜?」
「お前わかってて言ってんのか? あいつが契約破棄に同意すると思うのかよ、絶対無理だな」
「え〜? どうして〜?」
 わからない〜とシュレリアの表情が言っている。
 クーパはそれに気付き、呆れたように溜め息を吐いた。
「おいおい、契約破棄の三大原則忘れたのかよ」
 クーパが言った三大原則とは以下の通りのことである。
 第一は、契約者が死ぬと契約を結んでいた精霊と自動的に契約破棄されること。
 第二は、契約者が精霊との契りを自ら破棄すること。
 第三は、契約者とは別に契約することのできる相手と契約を交わすことで、前の契約者との契約を強制的に破棄することができること。
 ただこの第三は特別な条件が必要になる。
 それは魔力の絶対量が前の契約者よりも高いことが契約の条件となる。
 いずれも契約破棄するためには難しいのだ。
「覚えてるよ〜ルイなら第三の条件でできるよ〜」
「あのガキンチョがそんなに魔力あるのかよ? いや、ちょっとまて。第三にしても属性が違うだろ? 契約するためには契約者と精霊は同属性じゃねえといけねえよな。あいつ珍しい白銀の髪色してるが、雪人だろ? 契約することすらできないじゃねえか」
 クーパが訝しげにシュレリアを見た。何いってんだと目が言っている。


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