雪人
「でも〜私と契約出来てるじゃん。それにね〜ギュレちゃんが言うにはね〜ルイは嚮導者なんだって〜」
「嚮導者? なんだそれ?」
 まとわりつく風から解放されたクーパはスコップを取りながら素っ頓狂な声を出した。空中で静止しているシュレリアを見上げるかたちで見る。
 ゆっくりと地面に降り立ったシュレリアはクーパのところまで歩いていく。
「私もわかんないよ〜。ギュレちゃんいっつもわけの分からないこというもん」
 シュレリアは不満そうに声を漏らした。緩いカーブのかかった緑色の髪がユラユラと揺れる。
「嚮導者か……聞いたことねえな。それよりなんだ、そのギュレちゃんとかいう奴は?」
 クーパは手に持っているスコップを肩に担いだ。地面に座り胡坐をかきはじめる。同じようにシュレリアも地面に座った。
 この二人は戦闘する気は全く無いらしい。
「ん〜とね〜雪の上級精霊だっていってたよ〜ギュレちゃんが〜」「上級精霊!? マジかよ!? あのガキンチョが契約出来たってのかよ」
「ルイの精霊狭界にいるんだよ〜契約出来てるに決まってるじゃん」
 シュレリアはルイのことをまるで自分のことのように誇らしげに話していた。契約者であるルイをシュレリアは多大に信頼し信用し、そして大好きだから出てくる言葉だった。
 ふーんと相づちを打ち、そんなシュレリアをクーパは眺めていた。
 精霊狭界とは契約者が契約した精霊の別次元の居場所みたいなものだ。精霊狭界から契約者は精霊を呼び出して行使している。
 この精霊狭界だが、様々な風景があるようだ。清らかな心を持つものなら噴水やみずみずしい草花などがある楽園のような場所もあれば、悪意に満ちたものならマグマや溶岩など地獄を思わせる景色などがあるらしい。
 要は、契約者一人一人の心が様々な風景を生むということだ。
 クーパが不意に口を開いた。何かを決意した瞳で。
「俺もお前の契約者と契約するぜ、精霊狭界に一人でいるのは淋しいからよ」
「うん! 今から契約しに行こうよ〜」
「おう!」
 二人が立ち上がったその時、ビリビリと肌を刺すような魔力の波動を感じた。
「ソクラサの魔力だ……やべえな」
 クーパが緊迫した表情で呟いた。
「ほら行くよ〜」
「へ? おわっ!」
 シュレリアはクーパの背後から両腕を持ち、夜の空へと飛翔したのだった。
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