雪人
 ルイとエレミールの胸の内にある思いなど分からないミフレは、二人を見て不思議そうに首を傾げた。
「ん? どうして送らないんだ?」
 ミフレがこう訊ねたのも無理はなかった。
 地国に潜入する前にミフレからはなされた話では、ブロンド髪の女性――ミューレは処刑という面目とは言え、人一人を殺している。いや、もっと殺している可能性だってあるかもしれない。
 それなのにミューレを捕らえない事に、ミフレはふつふつと苛立ちの根が心に芽生えてくるのを感じた。
「如何にして送らないのですか?」
 ベルライズにしても同じ思いだった。
 地国に災いの種を持ち込んだ内の一人であるミューレを組織ジハードへ送らないことに、ベルライズは賛同できていなかった。彼の表情からもそれは容易く伺える。 二人の思いを汲み取りたいけれど、ルイとしても譲る気はなかった。恩着せがましい方法で引いてもらうしかない、二人には。そう思った。
 エレミールは口を挟まず黙ったままだ。
「ミフレ、確かまだ俺達を雇う賃金払っていなかったよな、それと、王宮騎士ベルライズ、あんたにも貸しがあるはずだ」
 ルイは二人を見て言った。
 実はまだルイ達を雇うお金をミフレは払っていなかったのだ。後払いということでなんとか雇うまでにこじつけたのだが、普通ならこんな特例はない。ルイの昔の知り合いという理由でもらった特例だった。
 ここまではミフレの思い通りに話が進んだ。
 しかし、ミフレにお金を支払えれるあては全く無かった。それなのに二人を雇ったのだ。なんと大胆なことをするのだろうか。
 なら、どのようにしてミフレはお金を支払おうとしたのかというと、
「お金? そんなものアタシ達貧しいレジスタンスにある分けないだろ。ましてや大金だぞ、無理無理。だからさ、地国の偉いさんに払って貰うんだよ。ん? 無茶苦茶じゃないですか? ハハハ、アタシ達は国を救う救世主だぜ。強気な態度で言えば大丈夫に決まってるだろ。アタシに任せとけって」
 二人を雇う前にアジトで、レジスタンスのメンバーであるダントとの会話で、そう言ったのだった。
 凄く人任せな方法でお金の面を乗り切ろうとミフレは考えたのだった。
 これを聞かされたアジトのメンバーは一様に同じ事を思ったらしい。
 恐るべしあねさん、と。

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