雪人
 ベルライズが頭を上げるのを見たあと、エレミールはさっきから気になっていることを口に出した。
「ねえルイ、一体このモグラは何なの?」
 エレミールはルイの傍らの足元でスコップを担いでいるモグラを不思議そうに見た。膝をまげてこっちを見てくるモグラの目線に合わせる。
「あ、アタシもそれ気になってた」
 ミフレもエレミールと同様にモグラのクーパのことを気に掛かっていたらしい。瞳からは興味津々の色が浮かんでいた。
 二人の人格どうのこうの云々にして、外見的には可愛らしい女性二人に見つめられているクーパは恥ずかしそうに空いた手で頬をかいた。視線は落として、地面の散り散りになっている絨毯を見ている。
「このモグラか、名前はクーパで地属性下級精霊らしい」
「らしい、じゃねえ! れっきとした精霊だ、俺は!」
 ルイの存外な言い方にクーパがくってかかったけれど、
「だそうだ。俺が相対した敵と契約していたが、不本意な契約だったようだな。ああそれと、俺と契約したいらしい」と相手にしてもらえなかった。
 不服顔でルイを見上げるクーパを微笑ましく見ていたミフレとエレミールが、
「結構いいコンビね」
「そうだな」
 と同じようなことを思って言った。
 ルイもさっきから気になっている事があった。瓦礫の少ない場所で気絶してねかされているブロンド髪の女性を何度も見て、内心驚いたりする。久しくその髪色を見ていなかったけれど、まさかこの場所で目の当たりにするとは、ルイは思っていなかった。
 どうして木国の人間が――
 喉まで出かけた言葉を押し留め、ルイは女性二人を見た。
「なあ、こいつは……いや、この木国の女性はレッドクロスの人間なんだな」
「そうよ」
「そうか……この女性をジハードに送らなくてもいいよな?」
 同意を求めたルイの言葉にエレミールは少し考えた表情をするけれど、その内に反して小さく頷いた。
 組織ジハードには、犯罪者達を閉じ込める牢獄がある。牢獄と聞けば汚いイメージがあるが、ジハードは白一色の壁色で部屋も綺麗なのでそういうことはない。
 その牢獄には大なり小なりの犯罪を犯した人間は強制的に送られることになっている。未だその違反を破った人はいない。もちろんエレミールやルイは周知の事だった。
 それでも二人はミューレを送らない事にしたのだ。
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