妖恋

ヒュー、ヒュー。

冷たい風が開け放った障子からやわらかく、そして、凍てつくように
飛び込んでくる。
風はささやいて逃げていく。

「おまえは忌み子。嫌われた子」
「おまえはひとり。味方なんていやしない」
「いたとしても、それは嘘。偽物だ」
「かわいそうに」
膝を抱え込んで、顔をうずめて。
入ってこないでほしいのに・・・
「くすくす。寂しいか?」
「怖いか?」
「でも、仕方ない」
「仕方ないんだよ?」
入ってこないでよ・・・
「・・・・やめてよ」
嫌だ。聞きたくない。忘れたい。怖いよ・・・
「いやだ・・・止めて・・・怖い」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「じゃあ、壊せ。壊せば楽になる。」
「なくなればいい。」
「壊せ」
月が暗い部屋の中を照らす。幼き少女は涙を流して。
畳の床が少しづつ軋みだす。
ギィィ。ギシッ。
壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ。
少女は導かれるままに言葉を発した。ゆっくりと・・・・
「・・・・・・こ・・・わ・・・れ・・・て・・。」
言い終えた途端、部屋の軋みが異常なまでに大きな音を出し、
風は部屋の中の物を全て吹き飛ばすほどに強くなった。
障子は破れ、文机は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて壊れる。
天井から砂のようなものがハラハラと落ちてき、
もうすぐで壊れることを物語った。
書物も中身が吹きとばされて飛んで行った。

少女は再び・・・
「・・・・・こわれ・・・・」
「雅嬢!!!」

妖が月明かりを背後に立ちはだかった。
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