【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




そして……万が一、
恭也を奪って、全ての苦労を越えた先に
恭也の口から、その日の決断を責められる
言葉が……出てくるのが怖い。





大切な恭也だから
だからこそ……拒絶されるのが
耐えられないと思った。





「文香……。

 無理だよ……。
 恭也の事は今も思ってる。
 
 私が傍を離れることは出来ない。

 だけど……恭也とおばさまの未来の責任を
 とる勇気はないの。

 私の収入は少ない。
 
 どんだけバイトを掛け持ちしても、
 恭也を経済的に支えることは出来ないもの」




そう……。


私がどれだけ望んでも
叶うことがない現状。



「ホント……
 馬鹿なんだから」



その後、文香は
たた黙って、私の傍に居てくれた。





食事を終えて、
電車に乗って帰宅する途中に
電車の中吊りの広告が視界に入る。




そこには、
私以外の家族3人が
ピアノの前で立つ、そんな写真。






ピアノリサイタル

世界が震撼した音色が
今、日本を包み込む。


藤本智志
  結愛
  冴香


親子が奏でる至上の調べが
貴女の上に降り注ぐ











そんなポスターが視界へと移る。





昔は……私以外の家族が
映る写真を見るだけで、
心が苦しくなって発作が起きてた。



だけど今は……
そのポスターを
抵抗なく見つめることが出来る。




ボーっとポスターの小さな文字を追いかける
私の目に留まったのは、
祐天寺の文字。



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