【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




読み終えて、
ただ何をする気にも慣れないまま
私はその招待状をその場に置いて
体を引きづるように、
スタインウェイへと向かう。




蓋を開けて再び奏でるのは、
やっぱり……愛の夢。








もう終わらせないと……。



諦めないと……。





私が笑って、
恭也を祝福してあげられたら
恭也は傷つくかも知れない。




私の事を嫌いに
なってくれるかも知れない。




私が恭也を嫌いになることが出来ないなら、
恭也から責めて、嫌われることが出来れば
この関係を終わらせることが
出来るかもしれない。





この愛の夢に、
終止符を打つことが出来るのかも知れない。







彼に嫌われて拒絶されることが出来たら
私は……。






突然、届いた招待状は、
祐天寺昭乃からの
最大の嫌がらせ。





それでも、
なかなか葉書を出すことが出来なかった。




返事をすぐに出さなかった私の元に
催促するように彼女が職場に現れたのは
一週間後。



彼女の前で、
あの手紙の内容そのままに脅迫されるような形で
私は、彼女が用意した葉書に
出席可能として丸を付けて返事を手渡した。










ごめんなさい、恭也。


こんな形で、
貴方を傷つけるしか出来ない私を……。








その数日後、
文香から夜に電話がかかる。




『バカっ、神楽。

 アンタが傷つくのを知ってて
 どうして、
 二人の結婚式に出席するなんて返事だしたのよ。


 今日、私の家にも届いたわよ。
 恭也君と祐天寺の結婚式の招待状。

 私、腹がたって思わず破り捨てそうになったわよ。

 だけど中から、
 恭也君の手紙が出て来たの。


 俺が傷つけた神楽さんを、
 一番近くで支えて欲しいって。

 
 もう、二人して何でそんなにお互いを思いあうだけで
 自分を傷つけることばかりするのよ。

 
 私も出席するって伝えたから。

 だから神楽、アンタも一人で抱え込まないのよ。

 ちゃんとアンタには、私がついてるから』






文香の言葉は
時折、涙に震えているようにも思えて。
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