【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「そうか……。

 お前が決めたんなら、何も言わねぇよ。
 ただ……これ以上、
 お前自身を追い詰めるな。

 それだけだ」 



そう告げてアイツは控室を出て行く。



不器用なこんなやり方でしか
選べなかった俺を
アイツは否定もせずに受け止めてくれる。




一人になった控室。

鞄の中から薬を取りれ出すと、
口の中に放り込んで、
一気に水で流し込む。



もう引き返せない。
この先の未来。



だったらこの先の未来で
手に入れられる全てを
貪欲に手に入れて見せる。





「お時間です」



そう言って迎えに来た式場内のスタッフに連れられて、
新郎としてのスタート地点にゆっくりと立つ。




パイプオルガンの音色が響きわたり、
ゆっくりと扉が開いた先から、沢山の祝福を受けた花嫁が
ゆっくりと俺の方に近づいてくる。




「恭也くん、昭乃を頼んだよ」





そう言って託された祐天寺昭乃を
傍らに抱く。




神を偽る冒涜。
本心とは裏腹な誓い。




婚約者が妻へと変わる瞬間。





祐天寺昭乃の傍、
俺自身の犠牲、全てと引き換えに
手に入れた偽りの未来の中
ただ一つの次の夢だけが、
俺に新しい一歩を踏み出させる。








力がない俺は、
今日で終わる……。





無様で惨めな俺自身は
今日で終わる。




だったら……この先、
昇り詰めるだけ、祐天寺を利用して
駆け昇って……
俺がその場所をおさめるようになったら
堂々と……神楽さんを迎えに行く。




その時は、
俺自身の想いは
誰にも遠慮する必要なんてないんだから。



祐天寺昭乃の子供は、
認知はしてやるが、俺の子じゃない。



その事実が、
俺が祐天寺より優位に立つための
武器にもなるような気がして。




幸せそうに微笑む
花嫁の傍ら、
今度は俺自身が
悪魔に魂を売り渡していくようだった。




 


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