【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】






俺でも知っているような
有名なサウンドを披露した後、
彼女たちは、
ゆっくりと楽器の前から離れてお辞儀をした。






演奏が終わった途端に、
動き出す観客たち。




だけど……俺は、
そのまま動けずに、
その場で立ち尽くした。





彼女の視線が、俺を捕える……。






それだけで、ドクンドクンと
脈打つような鼓動。







エレクトーンを演奏していた
スタッフらしい人と会話をしている彼女。





そして……その女の人が、
彼女の背中を両手で押し出した途端に
彼女の体は傾いて、
俺の腕の中に、すっぽりと収まった。






受け止められて
……良かった……。





安堵する俺の心。



だけど……
素直に秘めた言葉は出せない。






「お姉さん、
 ちゃんと前見て歩きなよ」







可愛くないなーなんて、
想いながら、
雄矢や勇生が居たら
笑われるんだろうなーなんて
そんなことを考えた。




慌てて彼女から離れると、

どう会話を
続けていいかわからなくて、
視線を逸らす。





「今日はどうかしたの?」



背後から、
彼女の柔らかい声が聞こえた。




「習ってみたくて……」






動機が不純すぎて……
堂々と言い出せない想いは
小さな言葉で告げられる。






驚いたような彼女の表情に
チクリと胸がいたんだ。

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