【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
第三楽章  深愛

1.それぞれの年月(時間)Ⅰ -恭也-


「貴方、いってらっしゃい。
 勝矢さん、ちゃんとお父様の言うことを聞いてしっかりと
 勉強するのよ。
 貴方は祐天寺グループの後継者。
 そして、お父様の大切なこの病院を継ぐのだから」

戸籍上の妻、昭乃が同じく
戸籍上の息子に対して話しかける。


偽りだらけの家族でも、
今は……これが俺の家族。


父の夢を守るために必死になった
俺の人生の代償だった。


先に車に乗り込んでシートに
体を預ける。



「お父様、遅くなりました。
 お母様、行ってきます」


そう言って
車に乗り込んでくる勝矢。


「出してくれ」


運転手にそう声をかけると、
静かに車は動き始めた。


「お父様、今度の成績が良かったら
 お母様がお父様に好きなものを
 買っていただきなさいって言ったんだ」

「そうか。
 ならお母さんに予算は渡しておく」

「お母様は学年トップにならないと
 ご褒美はなしって言うんだけど、
 今の成績で、それは難しいんだ。
 僕も頑張ってるけど、授業は難しいんだもん。
 ねぇ、ご褒美。
 学年トップじゃなくてもいいように
 お父様から、お母様に話してよ」
 


俺の血が繋がっていないことを
話しても、態度が変わらなかった勝矢。


自分の実の父親がどんな人であっても、
戸籍上の父親が俺である限り、
お父様はお父様だよっと言いきった勝矢。



純粋にまで慕う勝矢だが、
俺は素直に向き合うことが
出来ないでいた。



「お母さんがそう言ったのであれば、
 ご褒美は学年トップだ。

 俺は仕事がある。
 
 勝矢も到着するまで、
 勉強でもしていなさい」 


そう言ってわざと突き放すと、
鞄の中からおもむろに
ノーパソを起動してそのままモニターを見つめる。


今、現在入院している患者のデーターに
目を通しながら、
その情報を自分の中に刻み付けていた。


父の夢である多久馬総合病院が完成して、
院長に就任したものの、
不慣れな経営にはかなり手こずることになった。

そんな俺が、それでも父の夢を受け継いで
今のように大きく基盤を築けたのは、
祐天寺の父の力。


それは避けることの出来ない現実。



「勝矢さま、学校に着きました」


運転手の声と共に
静かに停車した車。


運転手のあけた
後部座席のドアから、
勝矢は学校の校舎の中に消えていく。


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