【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


二人だけの時間だって思ってた
過去も……あの家で暮らしていた
私たちを知る人は居たんだ。
 


恭也君しか見えてなくて、
恭也君に思いを寄せてた存在も居たなんて
全く知らなかった。




世界の狭い、
何も知らない私より
この浦和さんの方が
沢山の事を知っているように感じた。




「今はまだ薬で眠っていますが、
 検査の後、真人君を覚醒させます。

 あっ、そうそう。これ」



そう言って浦和さんはポケットから、
包み紙を手渡す。



「この薬、結城さんに渡すようにって
 恭也先生に預かってきました。

 それでは」



そう言って浦和さんは、
ゆっくりと病室を後にした。

手渡された薬には、
私の名前がカタカナで印字されていて
飲みやすいように全て、
シートから外されている。


無意識に包み紙を破った後、
飲み物がないこと気がついた。


キョロキョロと周囲を見渡したら、
そこには冷蔵庫。


その扉をゆっくりと開くと、
そこにはペットボトルに入った
お水とお茶。

そして、スポーツドリンクと
子供を意識したのか、
可愛らしい動物のイラストがかかれた
リンゴジュースと、
オレンジジュースの小さなパックが一つずつ。



それらが入った買い物袋には、
見慣れた文字で綴られたメッセージ。




神楽さん

喉が渇いたら
飲んでください。


恭也





懐かしい文字を指先で辿って、
その小さなメモを手に取ると、
私はゆっくりと折りたたんで
自分のポケットへと忍ばせた。



ペットボトルの水を手に取って
キャップを捻ると、
手渡された薬を口の中に入れて
一気に水で流し込んだ。








久し振りに再会出来た恭也。


あの日、私の我儘で勝手に身を引いた私が
今更、頼れるはずもないのに
心が弱い私は、今もこうやってこの場所に来てる。




恭也君の何気ない仕草と、
何気ない声に、
今もドキドキして心が揺れてる。


真人の前で……
彼に溺れそうになる私を見られたくなくて
必死の思いで、離れようとするのに
心と体はその想いについて行かない。


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