【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


今だけ……
今だけが永遠に続けば、
どれだけ幸せだろう。


この中に、
元気になった真人が笑いかけてくれたら
俺は……。


脳裏で想像するのは、
叶えることが出来なかった幸せの形。

ぐるぐるとベッドで燻るのも嫌になって、
それを打ち消すように起き上がる。


「朝ご飯、いい香りがしてる」

「たいしたものは作れないよ。

 でも坂の下にあったコンビニで
 パンと紅茶と卵とハムを買ってきたの。
 サラダとヨーグルトも」


そう言ってテーブルに出されたのは、
昔も何度か作ってくれたことのある
彼女の特製サンドウィッチ。


分厚い甘めの卵焼きが美味しくて
彼女が作る、ソースがお気に入りだった。



ワンプレーㇳに盛られた
ハンバーグと野菜と厚焼き卵が挟まれた
サンドウィッチとパスタサラダ。

そしてフルーツが添えられた
ヨーグルトに、ティーカップに注がれた紅茶。



彼女はテーブルに手早く出来た料理を並べると
そのままお風呂場へと向かっていく


そして手慣れた操作で、
お風呂の湯はりをセットしているみたいだった。

キッチン側のユニットから、
お風呂の湯はりコールが響く。



「昨日、力尽きてお風呂入れていないから
 入るよね。

 昔の温度で今、お湯セットしたから。

 後、一応着替えの下着。

 これもコンビニで買ってきたものだから、
 たいしたものじゃないけど、脱衣所に置いておくね」



彼女の何気ない言葉が
こんなにも俺の心を揺らしていく。


そんな彼女も俺が座る向かい側へと着席して
静かに手を合わせた。



「いただきます」


小さく続けた彼女の言葉の後に、
俺はここ数年、
言うことがなかった言葉を続けた。



彼女が目の前に居るだけで、
こんなにも穏やかな時間を過ごせる。


俺には彼女がこんなにも必要なのに……
彼女にとって、
俺はどれほどの価値がある存在なんだろう。



彼女を深く傷つけた存在である俺自身。

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