【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


一度は冬生を、自分の屋敷へと招き入れたものの
勝矢や昭乃と関係を持つことが上手く行かなくて
冬生は、多久馬医院の跡地に建てた
マンションで生活させるようになる。



勇生の居ない時間は、
遮るもののない自転車。

ブレーキをかけることも、
壁に邪魔されることもないままに
ただ勇生の死から逃げ出すように
我武者羅に走り続ける
そんな時間。


自分自身でも、
その行動のあやうさを知りながらも
どうすることも出来ない俺自身。


弱い俺は立ち止まったら、
動けなくなりそうだったから。


そんな俺がどうしても縋る人は、
やっぱりあの人しかいなくて、
そのまま神楽さんの携帯を表示して
電話をする。



「こんばんは。
 恭也君、寒い日々ね」


そうやって切り出す彼女の声が
今は優しくて。

ただそんな声を少しでも長く聞いていたくて
黙って耳を傾ける。



「雄矢君から聞いたの。
 詳しくは彼の妹なのかな。

 恋華さんって、
 今の私の職場の名誉会長さんなの。 
 それで電話かかって来て聞いたの。

 勇生君と美雪さんが
 交通事故で亡くなったって。

 最初、TVで見た時信じられなくて
 そのまま飛び出していきたかったんだけど、
恋華さんの秘書さんにとめられちゃって。

 悲しいよね。
 辛いよね。

 悲しい時とか辛い時は泣いていいって
 教えてくれたのは、恭也君だよ。

 涙を流すことが出来たら、
 前に歩いていけるんでしょ。

 だったら……ちゃんと涙を流して、
 洗い流して、
 勇生君と美雪さんの為には前に進まなきゃ」


厳しいけれど暖かいその声に
背中を押されるように、
俺はありのままの気持ちを吐き出す。


そしてようやく伝えられた、
もっと早く伝えたかった言葉。



何度も何度も伝えようとしながら、
決して伝えることが出来なかった言葉。




『神楽……。
 一緒に過ごして欲しい。

 大切な存在は簡単に手の届かないところにいってしまう。
 神楽と俺と真人。

 それに冬生と4人で、暮らさないか?』




どれだけ言葉にしたくても
伝えきれなかったその想いを
今、勢いに任せて吐き出す俺自身。



勇生は……旅立っても、
世話焼きなんだな……。


アイツの死をきっかけにしてでしか、
ここまで話を伝えられなかった。

素直になり切れなかった。




長い沈黙の後、
彼女の告げた返事はNO。


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