【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「いってらっしゃい。
 留守の事は任せてくれたらいい」



そのまま消えていくあいつらの車。


それが、勇生と美雪さんの声を聞いた
最後の日になるなんて思いもしなかった。




三日目。



クリスマス本番を迎えたその日、
珍しく俺が住んでいるところでも雪が降った。


慣れない雪道で怪我をして
訪れる患者さんが病院内にも増えた。


こんな雪の日は、
神楽さんと出逢った最初の日を思い出す。



エントランスのインペリアルは、
冴香さんの紹介で招いたゲストピアニストが
静かに演奏している、季節のメロディ。



電飾が光るクリスマスツリーを
見つめて、一人院長室へと戻る俺。



クリスマスの今日。
君や真人はどうしているだろうか。


そんなことを想いながら、
引き出しの写真を辿り続ける。



ふいに院長室の備え付けの電話が鳴る。



「はい」

「院長先生、
 外線一番に警察の方からお電話です」
 


そう言って受けた電話の中で、
勇生と美雪さんが亡くなり
冬生が搬送された病院で
意識が回復していないことを知った。


慌てて電話を着ると、
事務長に病院の事を託して、
俺は雄矢と共に現地に向かう。



豪雪が凄くて
なかなか現地まで入れなかった
俺たちがようやく到着した時には、
警察の連絡から丸一日が過ぎようとしていた。



ようやく再会した親友夫婦。




旅行を終えた帰り道。


四台の玉突き事故が発生した。

勇生が運転していた車は、
前から三台目。

ペシャンコになったアイツの車は、
廃車にするしか仕方がないありさまだった。



美雪が庇ったのは冬生自身。


勇生に至っては、
息子と美雪の救出と、
4台の玉突き事故にあった人たちの
治療を現場でしていた最中に
雪崩に巻き込まれたと言うことだった。


雄矢と共に、
勇生と美雪さんの遺体を
連れ戻す手配をつける。


「俺は先に、式の準備をしておくよ。
 恭也は冬生を連れて帰って来てくれ」


そう言うと、
二人と一緒に車に乗り込んで帰っていく雄矢。


そのまま病院で、
意識が戻ったばかりの冬生と面会。

翌日、後を追いかけるように
冬生を連れて住み慣れた場所へと帰り
アイツらを静かに見送った。



両親が火葬されるその場所で、
ただじっとその扉を見つめるように
時間を過ごしていた冬生。


全てが終わった後、
冬生は緊張が途切れたように
意識を失った。



そのまま慌ただしい年末年始を過ごして、
冬生の後見人となる。
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