【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「神楽さん」



救助の邪魔になると
羽交い絞めにされる俺は
その場で茫然と救助の様子を見ながら
思考に冷静さを取り戻していく。



「すいません。
 家族の事なので取り乱しました。

 俺は多久馬総合病院で
 院長をしているものです。

 救助の間の彼女の状態を管理します」

「多久馬先生、お願いします」

深呼吸をして冷静に告げた後は、
レスキューの態度も少しずつ変化していく。


レスキューに案内されて
神楽さんの元へと近づく。

僅かな隙間の間から見える
彼女の手に触れる。

弱々しい拍動が、
俺自身に伝わってくる。

「待ってて、神楽さん。
 俺が近くに居るから」

声に出して呟いて、
鞄の中に忍ばせておいた
薬品や器具を使いながら、
ルートを確保していく。

俺が鞄に入れている医薬品だけで
何処まで出来るかわからない。

それでも彼女をこの手で助けられるなら、
最善を尽くしたい。

後悔がないように。


レスキューと連携して、
彼女の状態を管理しながら
瓦礫の下から救い出した頃には、
日が暮れようとしていた。


「引き出せ」



隊長らしき人から号令がかかって
その場所から引きづり出された
彼女の意識はすでになく、
手足には骨折をしていそうな外傷。


お腹の辺りに触れて、
腹部の状況なども把握していく。



担架で伊舎堂のマークがついた、
民間の救急車へと運ばれていく彼女。

弱々しい彼女の鼓動を 
守るように手を尽くしながら、
真人君が搬送された、
雄矢の待つ病院へと向かう。


救急車はサイレンを響かせながら、
病院へと道程を急ぐ。


助けて見せるからと何度も何度も
神楽さんに話しかけながら
合流するのを待ち続けた。

救急車から一報が入っていた病院では、
雄矢がすでに準備を整えて待ち続けていた。

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