【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「恭也、神楽さんをこっちへ。

 真人君は安心していいよ。
 
 足が何かの下敷きになったみたいで、
 骨折はあったものの、
 それ以上に大きな外傷とかはなさそうだ。

心臓の方も今のところ、異常は感じられない。

 詳しくは後で、お前のとこか、俺のとこで
 本格的に検査をすればいいだろう」



そう言いながら慌ただしく、
神楽さんの為に手を尽くしてくれる親友。



神楽さんの処置が終わった後も、
俺はそのまま彼女と
真人が眠る病室に留まり続けた。


気になるたびに、
バイタルを確認しては、
ほっと一安心する時間の繰り返し。


深夜、彼女を見つめる俺の視線に
彼女の視線が重なる。



「神楽さん?」


ゆっくりと目を開けた彼女は
訴えるように
ただじっと俺を見つめる。


「神楽さん、一緒に向こうに帰ろう。

 神楽の居場所も、真人の居場所も
 俺が作る。

 昭乃や勝矢の事もちゃんと考える。
 だったらいいだろう?

 動けるようになったら、
 俺の病院か、雄矢のところに搬送する。

 真人も今は眠ってるけど、
 無事だから安心するといい。

 一緒に帰ろう」


手を取ってそうやって告げた俺に向かって、
彼女は柔らかに微笑む。



手を取ってそうやって告げた俺に向かって、
彼女は柔らかに微笑む。


そしてそのまま、
もう一度彼女は目を閉じた。



そんな彼女と真人が助かったことに
安堵しながら、
人手が足りない医療現場へと
俺自身はもう一度戻る。


戻って俺が今出来ることを
雄矢や松崎たちとこなしながら
再び、病室に戻った時
俺は最愛の女性が
旅立ってしまった現実を知った。


クラッシュシンドロームによる、
急性腎不全。

透析が間に合っていれば、
体内にまわる毒素を駆血管理して
遅らすことが出来ていれば……。



せっかくのヘリも、
俺がこの場所に駆け付けた意味も
全てを失った現実。



真人が起きるかもしれないことを
知りながら、ただ泣き崩れるように
神楽を抱きしめる。


そんな俺を慰めるように
後ろから落ち着かせる雄矢。


雄矢に促されるままに、
最愛の女性の死亡確認を終えて、
そのままベッドを空けるために、
彼女を抱きかかえて、
遺体安置所になっている場所へと向かう。


硬直していく彼女の体を
抱きしめながら、
冷たく寒いその場所で一晩明かした。



「恭也」
「恭也さま」


安置所で動くことのできないまま
彼女を抱き続ける俺に
雄矢と恋華ちゃんが姿を見せる。



「恭也、真人君が目が覚めた」


そう告げた雄矢。


「恭也様、神楽さんは
 最愛の貴方に見守られて旅立ったのですわね。

 丘の上の教会。

 落ち着いたらご案内しますが、
 神楽さんの大切なお祖母さまがその場所で
 安らかな眠りについておられるそうです」


そう続けた恋華ちゃん。

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