【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



文香と二人、
劇場最新作の映画のテーマ曲を
ピアノとエレクトーンのアンサンブルで
お披露目。


拍手の後は、
ピアノのオンリーステージ。


続いて、エレクトーンのオンリーステージ。



最後は、体験レッスンの宣伝をして
フィナーレとなるアンサンブル。






サロンコンサートを演奏し終えて、
そのまま着替えを済ませた。





「お疲れ様。

 神楽……、今日はあがり?」




エレクトーン講師の親友、文香が
近づいてくる。



「午後は出張かな」





生徒さんの自宅を一軒一軒、
移動しての個人レッスン。




「うわっ。

 こんな日に大変じゃない?」




文香の言葉に、思わず窓から外を見ると
降り始めていた雨は、
真っ白い雪へと姿を変えて、舞い踊っていた。



「うわっ。

 見るんじゃなかった。
 寒そう……」

「さて、出張の前に腹ごしらえ。
 いつものところにランチ行こうか?」




文香に誘われるままに、
何時ものお店で、ピザをつまんで
午後からお邪魔する生徒さんの自宅に向かうため、
地下鉄に乗り込んだ。






地下鉄に乗って、バスに乗って。




公共機関を乗り継ぎながら、
雪の中、傘をさしながら
辿りついた生徒さんの自宅。




迎え入れられた先々で、
お茶をごちそうになりながら
レッスンを続けて……
ようやく終わった最後の生徒さん。




チラリと腕時計を見つめると、
時間は21時をまわっていた。






「優華ちゃん、今日のレッスンは
 ここまでにしたいと思います。

 大学入試の為の、実技演奏。
 この調子で緊張せずに望んでくださいね」





そういうと、ピアノの前に並べられた
椅子からゆっくりと立ち上がった。






「わざわざ、こんな天気の中
 有難うございます」





優華ちゃんのお母さんに
玄関まで見送られながら、
温かい空間を後にした。





傘をさして、玄関から一歩外に出た私は
自宅に帰るために駅へと向かう。





優華ちゃんの自宅は、
急な坂の上にある。






雪が寒さに冷却されて、
凍りついたようになっている道路。





時折、ツルツルとスペル足元を
踏みしめながら
一歩ずつ足を出していく。





傘は持ってるけど……
さすんじゃなくて、杖がわり。





馴染のない雪景色に
苦戦したらしい車たちは
坂道の途中で何台も
動けなくなっていた。



水気を含んで
少しずつ重たく感じる
コートに
体を小さく縮めて
少し速度を速めかけた時、
ツルンとひっくりかえった私は、
坂の上から下まで、
滑り落ちる。




太もも辺りを
雪の地に擦りながら。



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