【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





話せるのはわかってるのに、
受話器をとってナンバーを押すことは出来なかった。









今……彼に、
先生として電話なんてしたくない……。







「何々?
 神楽、それって」




レッスンが終わって、
横からファイルを覗き込んで奪う文香。




「もう文香。
 今日は飲もう」




文香からファイルを奪い取って、
パタリと閉じると、
早々に教室を後にした。




文香と二人、
駅前の居酒屋に顔を出す。





カクテルやら、
何やらを注文して
二人で過ごす時間。






文香が口にしたのは、
合コンで私が、
恭也君にお持ち帰りされたっと言うことが
後でかなりの噂になってたとか。




その日、結ばれたのか?っとか。




もう洗いざらい……
白状させられると共に、
恭也君の友達が、
やっぱり可愛かったとか。





確か……勇生くんって言ったかな?

文香に最初に話しかけた
恭也君のお友達。




あの子があの場に居て、
もう少しメイクに
気合いを入れるべきだったとか
恭也君経由で、
私にも幸せをおすそ分けしてよ……などなど。



マシンガン的に
女子トークは尽きない。







「でも……わかんないよ……。

 恭也君、今日来なかったし……。

 あんな私を見て、
 幻滅したのかも……」





そうやって言葉にしながら、
お酒の力もあって
涙腺が緩んで涙がポロポロ止まらなくなる。





「あぁ、もう。
 また始まった。

 アンタ、そのお酒で感情がすべて解放されるの
 コントロールしなさいな。

 ほらっ、はい。ハンカチでふいて」




甲斐甲斐しく私の涙を
ハンカチでふき取りながら、
手に握らせる文香。




「今日はたまたま都合が悪くなったんじゃん。
 
 来週、待ってなよ。
 待つのが嫌なら、彼の大学まで行ってみる?

 大学は私バッチリ聞き出したんだよ。
 私も勇生君にあってみたいし……」




文香のテンションが一気に強くなる。





だけどその申し出には、
首をゆっくりと横に振った。






そんなの恭也君の迷惑だよ……。







恭也君にだけは、
迷惑はかけたくない。


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