【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】




妹の冴香は、
両親と父方の祖父母の期待に応えるように
ドンドンと技術を磨いて吸収していった。




私からしてみれば……
それはとても、
音を楽しんでいるようには見えなかった。




私は……
両親のぬくもりが欲しかった……。






偉大なピアニストの
両親が欲しいんじゃない。



ただ子供と向き合ってくれる、
優しい親が欲しかった。





だから……わざと、
ピアノの練習をさぼった。




ピアノ以外に夢中になる
私を知ってほしくて、
ゲームをしたり、木登りをしたり。



学校の友達と、放課後は
野原や運動場、河川敷をかけづりまわってた。




私がそうやって遊んでいる時間も、
冴香は一人、ピアノと向き合ってた。



そして……運命の日。






友達と山登りをしている途中、
足を滑らせて、
斜面を転がり落ちた私は
左腕を骨折した。









病院に運ばれて、
ギブスで固定された私を見て……
帰国していた
両親は残酷な一言を告げた。







『ピアノと向き合わないお前は
 一家の恥さらし。

 もう私たちの子供じゃない』








病院で一人、
泣きじゃくる私を残して
両親は姿を消して……
その30分後。




母方の祖母が、
私を迎えにきた。







その日以来、私は……
母方のお祖母ちゃんと二人で過ごしてる。




実の両親とも、妹とも、
一度もあっていない。






お祖母ちゃんの
家に送り届けられた私の荷物。





そこには……あの家で、
私の部屋にあった全てのものが詰め込まれていた。






両親が私のために買ってくれた
スタインウェイのグランドピアノが
その中に含まれていたのが、
せめてもの愛情だったのかどうかは、
今となってはわからない。

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