【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

16.守りたい - 恭也 -





入院中の母親が退院した。



命を取り留めて、
今も生きてくれてる。




それはとても嬉しいのに、
手放しで喜べないのは
体に残った障害。





左半身の軽い麻痺。







リハビリに耐えた母親は、
何とか杖を突けば、
ゆっくりと歩けるまでには回復した。





だけど……今までのように、
看護師として親父の仕事を手伝う事も、
家事をこなすことも難しくなった。





自分のことを自分自身でやり遂げるのに
いっぱいいっぱいに映る母。




そんな母が自分自身を責めないように
注意を払いながら、
過ごす時間。




父親と二人。



馴れない家事に苦戦する。




「恭也、どんな洗い方した。
 洗濯物、色移りしてるぞ」





洗濯物を干す、
父親が俺に色移りした
Tシャツを見せにくる。



「どうやってって。
 
全部一気にいれて
ボタン押しただけ」



そう答えた俺に、
母さんは必死に声を発して
言葉を伝えようとしてくれる。

 


「きょ……うや。

 洗濯ものは……色ものと、
 白いものはわけて……」



ゆっくりと母親から紡がれる
主婦の常識は、
俺の知識にはないものばかりだった。




馴れない家事は、
俺と父さんを苦戦させていく。






俺自身の日々がいっぱいいっぱいで、
それでも、神楽さんは気になる。





 
彼女が気になる俺の心は、
止まることはない。






ねぇ、神楽さん。
今、何してる? 






家事と勉強の合間、
時間があると、
神楽さんを想う。
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