【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

17.誘われて一つ屋根の下 - 神楽 -





『迎えに来た……。

だから開けてよ』



突然現れた、
恭也くんの力強い言葉。



信じられないままに玄関を開けて、
彼の存在の大きさを感じた夜。



私は……
彼と久しぶりに繋がった……。






高校生だと思ってた彼が
私と同じ大学生になって、
年下なのに……今はもう、
私よりも大きく見えてしまって……。




私が弱ってるから?






お母さんと妹と再会して
やっぱり……
要らない存在なのだと
強く突き付けられて。




唯一縋っていたその思いも
打ち消されて……。



会社から謹慎を言い渡された時も
社会からすら、
信用されないのだと悲しくなった。




無収入では生活できなくて、
何とか立て直そうと始めた
夜のバイト。




夜のラウンジで
ピアノを奏でる時間。





だけど……思い通りに
私の心のままに奏でてくれていた
指は今は機械的に鍵盤に触れるだけで
次第に……ピアノに
触れている時間が苦しくなった。






苦しさが募って、
過呼吸で倒れた……。





その後は、
ピアノに触れるのが怖くなった。





ピアノしかないのに……。






両親にも妹にも受け入れて貰えなかったけど、
それでも……私が、誇れるものは
あの人たちから与えられた、ピアノしかなくて。


だけどそのピアノも
弾けなくなった。







私を形成している大切なものが
少しずつ奪われていく感覚が
押し寄せてくる。




そんな日々の葛藤に蓋をするように
今も縋り続けるのは
恭也くんが何度もリクエストしてくれた
リストの愛の夢を弾くことだった。



大切な相棒。



スタインウェイの蓋を開けて、
鍵盤に指を走らせる。




ぎこちなく動く指も、
今も私を映し出すみたいで。





そして……彼を一人、
思い続ける
そんな私の不器用さそのままで。






一日中、部屋に閉じこもって
ピアノの前で、
彼を思いながら指を動かし続けた。






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