【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】


三つの拠点を行き来しながら、
神楽さんは今も俺の家族たちと親しく
交流を続けてくれる。

出逢って六年。

この春、俺たちも医大を
卒業して国家試験を受ける身。


あの出逢ったばかりの、
神楽さんに惹かれた、
高校三年生の俺からは、
想像もつかないような夢の時間を過ごしていた。



「悪い、リズちゃんと美雪嬢には
 宜しくいっといて。

 俺、今から神楽の職場。
 帰りに買い物して、一緒に晩御飯だからさ」

「恭也んとこは、親公認だもんな。
 雄矢も公認だしなー。

 二人は彼女と楽しい時間を
 大胆に楽しめるもんな。

 俺なんて、まだまだ先は長そうだし」


そんな風に肩を落とす勇生。

そんな勇生を宥めながら、
雄矢は俺を送り出してくれた。


大学を飛び出して電車に飛び乗って向かうのは
神楽の職場。



結局、数か月しか通うことが出来なかったけど
俺にとっては大切な思い出の場所。




自動ドアを開けると、
見慣れた景色が広がる。




『はい、午後17時からお届けして来た
 今日のミニコンサートも、
 最後の一曲となりました。

 最後の一曲は、エレクトーンとピアノでお届けする
 今話題のドラマの主題歌。

 お楽しみください』




神楽さんの相棒でもある、
文香さんがエレクトーンの前で通りがかるお客さんたちに
呼びかける声。


文香さんが演奏している、
エレクトーンの隣には、
神楽さんが演奏するグランドピアノ。

ピアノの鍵盤の前で、
両手を組んで祈るように心の準備をしている神楽さんは
ステージの上から俺の存在に気が付いて
小さく手を振って来た。



思わず反射的に振り返す手。




神楽さんと出逢う前までの俺には
想像すら出来なかったやりとり。



二人の息があった10分近くの演奏は
あっという間に時間が過ぎて、
人気曲と言うのもあって、
大勢の立ち止まる通行人たちの拍手によって
幕を閉じた。



文香さんと神楽さんがゆっくりと
観客たちにお辞儀をする。



音楽教室内がまた何時もの
風景を取り戻す。


自動演奏で流れる、
クラシックの静かなメロディ。


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