【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】
広すぎる部屋ではないけど、
キングサイズのベッドが一つ。
そしてテーブルと
向かい合わせのソファー。
そのまま俺は、
窓側へと近づいて、
窓を開けてバルコニーに出る。
バルコニーから望む景色は、
絶景の夜景と言われた有名ホテル。
その場所の下見だけすますと、
ゴロリとベッドに横になった。
急におどおどし始めた、
神楽さんは、
小さく身を縮めながら
俺の隣に座り込んだ。
「恭也……どうして?」
「俺が神楽と来たかったから。
神楽がなんて言ったって、
もう今日はここに泊まるの決定だから。
宿泊費は先に支払ったし、
俺の卒業と合格祝いでしょ。
だったら……」
神楽が欲しいよ……。
勢いで伝えることが出来たら。
受験の間、
一緒に過ごすことはあっても
SEXは殆どお預けだった……。
だからこそ……。
「親父もお袋にも、今日は神楽さんと旅行に出かけるって
伝えたから……俺、帰るところないし」
何言ってんだよ。
神楽さんに帰られないように、
必死になりすぎる俺自身が
滑稽にすら思えてくる。
沈黙が重たい……。
だけどその長い沈黙の後、
彼女は「有難う」っと呟いた。
その夜、デートで初めて
ホテルディナーを楽しんで、
チケットを取っていた、
観劇の舞台を見て……
ホテルの部屋へと戻る。
そのままバルコニーで夜景を望みながら、
俺は、久し振りに神楽さんの唇に
ゆっくりと自分の唇を重ねた。
糸を引きながら、
離した長いキスの後、
彼女は申し訳なさそうに呟く。
「ごめん。
口紅のメーカー変えたら、
唇が荒れちゃってカサカサだったでしょ」
続いてまた何を言いかける唇を再度
自らの唇を重ねて塞ぐと
そのまま壁際と押し付けて、
ゆっくりと密着させた体の間を
そっと洋服の間から覗かせる肌を撫でるように
触れていく。
その度に零れる、
久し振りに聞いた神楽さんの声に
俺の理性は、ゆっくりと解放されていった。
その数日後、彼女が仕立ててくれた
オーダースーツを着こなして
研修先の病院に通勤する俺。
まだまだ経験を知らない俺は
ガキかも知れない。
だけど……社会人の一員となった今、
今までと違う関係を
築けるようになるかもしれないと
僅かな期待に光を見つけた時間。
だけど研修が始まった俺は、
病院の雑務に追われて、なかなか神楽さんとの時間を
作ることが出来ないままに時間だけが過ぎて行った。
翌年の6月。
まだ研修期間にも関わらず、
親友の雄矢はリズさんと挙式をあげる。
親友の新郎姿。
幸せそうな新婦。
そんな二人を見つめながら、
その日を夢見る俺と勇生。