【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「君のせいじゃないよ……」




それだけ伝えるのが精一杯で、
俺はその後も、悲しみを振り返る間もなく
親父の葬儀の準備に追われる。



現実感のない時間の中、
やるべきことだけをただ確実にこなし続ける俺は
ロボットみたいで自分自身で滑稽にすら思えた。

それでも一度、立ち止まってしまえば
何も出来なくなりそうで。



親父の葬儀を終えた夜、
母は悲しみのあまりか、疲労が溜まりすぎたのか
高熱を出して倒れてしまった。


使い慣れない親父の医療器具を借りて、
母の治療を済ませると、
母を自室のベッドへと抱えて眠らせる。




「恭也、小母さんは?」


親父の葬儀の為に駆けつけてくれた
親友二人が、母を気遣う。


「熱は薬で下がるだろうし、
 今日は眠りやすいように点滴に安定剤を入れたから」

「んで、お前は?」

「俺は……」



大丈夫だと続けようとした口を
塞ぐように、言葉は続けられた。



「無理すんなよ。

 今のお前、
 大丈夫なんて顔してないからな。

 恭真小父さんが亡くなった今、
 この病院の事も考えないといけないしな。

 親父にも相談しておくから。
 多久馬には、おふくろもお世話になってるし」

「俺も父さんに話してみるよ。
 鷹宮から手伝えることがあれば言ってくれ」

「二人とも、悪いな」



親友たちは、
そう言うと……俺たち家族と、
神楽さんを残して俺の自宅を出て行った。



リビングの机には、
火葬されて白骨となった親父。



ふと視線を映して、
溜息を吐き出す。



そんな親友たちの優しさに支えられながらも、
俺はこの先の将来に不安を感じずにはいられない。



突然聞かされた、
親父が川崎病を経験していたこと。


その事実を俺が知っていたら、
医者になってた俺が、
親父の為に出来る事はあっただろうか?



何を考えても、
何も現実は変わらない。



ただ暗闇だけが押し寄せて来た。





思ってた以上に、
親父の背中はデカかったって事かよ。





親父に孫すら抱かせることなく、
逝かせることになっちまうなんて……。



もっと俺がしっかりと
決断出来てたら……。



そう悔やむ俺と、
こうなった今だからこそ、
神楽さんに今、プロポーズするわけには行かないと
シグナルを発する俺自身の心。


再び、迷路を彷徨い続ける心を
抱きしめるかのように、
小さく身を縮ませた俺を
神楽さんは優しく、背後から抱きしめた。


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