砂のオベリスク~第七大陸紀行~





「夜になれば、この暑さも和らぐかな」

「そんなものじゃ無いわよ。ここの夜は冬の雪山並なんだから」

「なに、なんだって。そりゃ厳しいな……」

「大丈夫。夜が来るのはずっと先のこと。ここでは、昼と夜とが入れ代わるのに一年かかるの。
月や太陽は三日ごとに少しずつ進むわ。
そしてここの太陽がちょうど中天にあるとき、向こう側……列車が走っていた世界で月がてっぺんに来たら、扉が開くの。こちらと向こう側が繋がるのよ」




 腰を降ろして話すうち、エンの瞳がちょくちょく私の胸元を見ていることに気が付いた。


彼女の言葉に相槌を打ちつつ、金色の視線の先を確かめると、女商人から買った首飾りがあった。



エンは、砂漠の陽射しに光る桃色の貝に惹かれているようだった。




 首飾りを外すと涼やかな音が鳴った。
私が細い三つ編みの紐の輪を握り潰して差し出すと、エンは静かに戸惑った。




「こういう飾りものは、君が持っていた方が良いだろう。安物で悪いけどね」

「いいえ……、いえ、貰うわ、ありがとう。私と釣り合うから、安物は好きよ」





 エンの胸元で、首飾りはその輝きを増したようだった。貝殻と珊瑚の欠片の桃色が、エンの白さと良く釣り合っていたのだ。どことなく、彼女も大人びて見えた。




 首飾りが本来の役割を担うことになった瞬間を、私は彼女の了解も取らずにカメラで押さえた。
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