砂のオベリスク~第七大陸紀行~
蒼き影
エンにも、私にも、どうすることもできなかった。
遠くでアルバートルの姿がグニャリと歪みはじめる。
陽炎がギラギラと踊り、景色を掻き交ぜる。
じわじわと空と砂の色が溶け合い、夏の海を真似る。
蜃気楼だ。
エンの優れた嗅覚は、いち早く背後の異変を捉えていた。
私たちの通ってきた場所に立っていた、もう一つの人影。
それもまた動き始めていたのだ。
アルバートルと全く同じ形の人影は、アルバートルとは真逆の方向を目指していた。
目をこらして見てみると、その足元にいくつかの小さな人影も見えた。
アルバートルを追ったはずの者たちだ。
「これは、どうなってるんだ。何が起きてる」
私は二つの行進から目を離せず、強風に遊ばれる風見鶏のように回った。
やがて、「かの地」を目指すアルバートルの姿がいよいよ崩れ、ついには、陽炎に溶けるように消えてしまった。
残った引き返す群れも、地平線を越えて見えなくなった。
砂漠に立っているのは、私とエンだけとなっていた。