砂のオベリスク~第七大陸紀行~
少なくとも、エンと私はカゲロウの死骸を見ていた。
いかさま執事のアルバートルにも会っていたし、列車から飛び降りもした。
エンが私を見捨てたことは一度も無かったという。
「ふうん。あなたの夢の中で、私はあなたを見捨てたのね」
渦が発生して直後、彼女は私の後ろ襟を掴んで跳び上がり、そのまま渦から逃げ回っていたという。その途中で、私はいつの間にか気を失っていたのだ。
「きっとここの空気のせいでございましょう。魔素が乱れに乱れてらっしゃる。これでは、夢にうつつに幻がはびこるのは仕方ないというもの。
見たところ、そちらの方はふつうの、まっとうな、つまらないくらいの人間であらせられる。
魔素にやられるのも無理はないと思いますが」
「そうでしょうね。でも、私は信用ないのね」
いつも微笑よりの無表情で何事にもあっさりした反応をする彼女が、わずかだが不満をあらわにして年相応の表情を見せたことに、私は少し驚いていた。