砂のオベリスク~第七大陸紀行~
「それではお嬢様、おいとまさせていただきますよ!」
「ごくろうさま」
「この船は差し上げましょう。もちろん、無償で」
孤立し、今にも沈もうという船での会話だ。
青年はどこかに去るつもりのようだったが、このとき、一番安全なのは船の上だった。そこから出れば激しい流砂だらけで、鳥でもないかぎり生き延びるすべは無い。
それでも、青年は去った。
ふと気がつくと、青年の姿が消えていた。目をそらしたつもりは無かった。彼が砂に飛び込む姿も、空に飛び立つ姿も見えなかった。
忽然と消えたのだ。
彼が消えたあたりには何の痕跡も無く、ただ手応えの軽そうな舵が暴れていた。
「来るわ、はやく耳を」
エンは、黒ずくめの青年など初めからいなかったという様子で、渦の主を睨んでいた。
その手には、少女に不相応なものが携えられていた。