砂のオベリスク~第七大陸紀行~
少女は荷物の隙間で膝を抱えていた。
床に垂れて清らかな川のように流れる雪色の髪と、冷え冷えとした白い肌。
奴隷の民族トリポリを思い起こさせたが、彼女の瞳は銀色では無く、朝日のような金色だった。
窓から射す夜の光を受ける彼女は、この世のものとは思えない雰囲気をまとい、大きな目で私を見据えていた。
「やあ、いつの間にここへ?」
私は思わず尋ねた。
彼女はベッドから抜け出してきたような格好だった。身につけているのは、薄手で白緑色のワンピースだけだ。
美人ではあったが、一人で列車に乗り込めるような歳には見えなかった。
「客室に戻った方が良い。ここの空気はひどいからね」
「それなのに、あなたはどうしてここにいるの」
少女は幼い声で、驚くほど落ち着いた話し方をした。
「切符を買い忘れてね。無理を言ったら、ここに押し込まれちまった」
「似たようなものよ」
「一人でこの列車に?」
「ええ。あなたや他の乗客みたいに、金属の板を渡すなんて真似はしなかったけれど」
「は、ハハ、そりゃまた悪い夢遊病者だな」
「まあね」
――案内者は予期せぬ形で現れる。
どこか素直では無い笑い方の少女を見ながら、私は頭の中でその言葉を反すうしていた。