砂のオベリスク~第七大陸紀行~
彼女は頑丈なガラスケースの中で守らねばならない繊細な人形のようだったが、実際、とてもしたたかだった。
「ねえ、夕食は済んだの?」
「いや、まだだ。食堂車のシェフは、うっかり俺の分を忘れたようでね。当分、我慢しなけりゃならないよ」
「当分って、七日間も飲まず食わずでいることになるじゃない」
少女はそう言うと、私に、固めのパンを投げてよこした。
「さっき、くすねて来たわ」
「おいおい、盗んだのか?」
「ええ。たかがパンを二つ、一人分よ」
「その一人分に当たる運の悪い人のことは考えないのかい?」
「家族に分けてもらえばいいわ。独り者だったら、スープで満たせばいい」
「まったく。せっかくだがこれは君が食べてくれ。俺には携帯食があるからね」
「でも、まだ手を付けない方がいいと思う」
そのときの少女の顔は忘れない。咄嗟にカメラを構えなかったことは、後悔してもしきれない。
「いくら乾いて味気なくても、パンくず一つ分のそれに救われることがあるかもしれない。砂漠の旅は何日かかるか分からないのだから。
あなた、ミュシャへ行きたいんでしょう?」