砂のオベリスク~第七大陸紀行~
酒場『ラフィジウム』
選り好みをしている余裕も無かったので、通りで酒瓶の形をした吊り看板を見つけると、店構えも気にせずに入る。
あまり品の良いところではなく、両開きの扉を空けたとたんに、つよいアルコールに油粘土を足したような匂いと、のどに焼きつく煙草の煙に襲われた。
ごみごみした店内では理性を失った笑い声が絶えず上がり、反り返った木の壁に反響して脳を揺さぶる音に変わる。
明かりは、縦断列車の中のそれに似ていた。
酔いつぶれる男の横でカウンターに手をかけたとき、ああと途方にくれる。
「すまない。やあ。少し良いかい。……駄目か」
私は変わりなく、空気より希薄な存在だったのだ。