いざよいの月
 美緒は坂井の指が好きだった。
 男の指にしては真っ直ぐにのびた、細くしなやかな動きをする指。
 それに痛々しい赤い痕がついたのが、本当にもったいないと思ったのだ。
「この程度の傷なら一週間もしないですぐに消えるよ」

 どきっとした。

 スグニキエル――

 今の美緒にはとても痛く……そして辛い言葉。
 心の中で繰り返す……ワカッテル、ワカッテル結果はわかってる。
 けれどもうひとりの自分は、諦めきれずに何かにすがろうとしている。
< 24 / 40 >

この作品をシェア

pagetop