はだかの王子さま
 手に収まったまま、動かないってことは、そのまま使っても、良いってことよね?

 わたしは、深く考えず、リンゴに刃をあてて、皮をむこうとした。

 と。

 すとっ。

 え?

 力全然入れてないのに!

 リンゴの皮だけにしては、ずいぶん実をえぐった部分が、空気を切っているみたいに全く抵抗なく通り過ぎた。

 そして、わたしがリンゴを持っている手の親指のつけ根で、0の刃が止まる。

 あれ?

 今、一瞬。

 あんまり切れ味が良すぎて、手まで切っちゃったかと思ったけど大丈夫そうだ。

 手は、痛くないし、血も出てない。

 へえ。

 コレって、リンゴはめちゃくちゃ良く切れるけど、指は全く切れない、初心者向きの良くできた包丁じゃない!

 お父さんが、これでキャベツ切ってた時、星羅はまな板が割れるだの、キッチンが破壊される~~とか言ってたけど、大げさだったんだねぇ。

 よ、良かった!

 これで怪我の心配せずに、リンゴの皮むきに専念出来る。


 すぃーっ、すと。

 すぃーーっ、すと。

 すぃーーーっ、すと。


 とっても切れ味が良いくせに、信じらんないくらい安全な刃に気を良くして、調子に乗り。

 何度も皮をむいては、自分の指の腹で刃を止めていた時だった。


 すぃーーーーっ


 長く長く皮をむいて、すとっ、と止めたとたん。

 わたしの手の中で、何かが、怒鳴った。

『ふざっけんじゃねえぜ!
 てめー!
 いい加減にしろ!!!!』
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