はだかの王子さま
「ただ……僕の場合は、単に照れているんじゃなく。
 今まで、なんとか抑えていた、僕の一方的な思いとか。
 醜い欲望をさらけ出しそうで……怖いんだけどね」

「う……と。
 やっぱり、星羅もそんなこと……考えてたんだ」

「僕だって、男だからね」

 愛しているヒトを目の前にして、何にも考えない方がおかしいよね、なんて言われて、どきんと胸が跳ね上がる。
 
 そう言えば、昨日の朝!

 騒動が起きる前に、蒼のセイラが……その……言ってたっけ。

 星羅が、わたしを目の前にして、考えていることなんて判っていないだろう、って。

 そんなことも、思い出し……わたし。

 はじめて、星羅を『大人の男(ひと)』って感じたんだ。

 星羅のことは、前からずっと好きで、去年のクリスマスには、カレカノになったけれど。

 今から思えば。

 獣のときは、優しい喋(しゃべ)り方とその姿で、完全にぬいぐるみ扱いだったし。

 ヒトの姿になってからだって、もの凄すぎるイケメン具合に、まともに星羅の顔が見られなかった。

 一応。

 キス? とか。

 その先?

 とか考えるようになっては来たものの。

 わたし一人が、空回りしてて。

 テレビの向こうにいるアイドルグループに恋してきゃーきゃー言ってる女の子と、同じみたいだと思ったんだ。

 それがようやく……変わってゆけるような気がした。

 少しずつ、だけど。

『星羅』が、地に足の着いた『わたしの彼氏』になってゆく。

 わたしは、星羅の手を握ったまま、ささやいた。

「一方的な思いなんて無いよ」

 わたしも、星羅が好きだし。

「醜い欲望……ってやつだって」

 星羅にちゃんと触られたいな……って思ってたのに。

 蒼のセイラに出会って、びっくりして、泣き出しかけたわたしの方が、よっぽど間が抜けて見える。

 決して大きな声は出なかったけれども。

 星羅の耳には、届いたらしい。

 なんとなく目をそらし、カラダを離していた星羅が戻ってくる。

「……僕は、真衣がオトナになるまで、待ってるつもりだったんだけど」

「明日になったら、オトナだもん」
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