はだかの王子さま
 だから、僕に襲われたくなかったら、そんな風に自分から抱きついちゃだめだよって、星羅はすぃ、とわたしから、カラダを離そうとした。

 そ、それって……

 襲う、なんて言葉!

 0と融合した『蒼の髪のセイラ』なら、ともかく。

 本物で『素』の星羅なら、一度も言った事の無い、言葉だった。

 わたしは、思わず、星羅の髪の色を確認し……まさか、0がどこかにいるのかと、忙しく見回し。

 手が、届かなくなる寸前まで、わたしから離れた星羅の手をがしっ、と掴んだ。

「ま、待って!」

「……だから、そういう風に触っちゃ、ダメだって」

 困ったような顔の星羅の手を放さずに、わたしは、聞いた。

「やっぱり……星羅も、前の姿より、こっちの方が好き?」

 これまで一度も、聞いたことの無い『言葉』なんだもん。

 姿が変わったとたん、言い出すなんて、ね。

 どんなヒトだって、地味な子よりも美人が良いに決まっているだろうけど。

 今までの星羅と一緒にいて出来た絆は、決して美人じゃない、普通の女子高生だったわたしと作っていったのに。

 全く新しい姿は、不安で。

 無理やり愛を迫る現王のように、外見だけに溺れてしまい。

 今までの姿のわたしが『居ないもの』みたいに扱われたらどうしよう、なんて思った。

 でも。

 星羅の返事は予想より、少し、違ってた。

「特別、何も変わらなくたって。どんなヒトより真衣が良いよ。
 真衣以外の女の子なんて、考えられない」

「う……うん。ありがとう」

「……でもね。
 他ならぬ『真衣』が『真衣』の中で変わるのなら、やっぱり気分は変わるよね。
 中身は、全く変わらなくても、まるで、真衣が可愛い服から、セクシーな衣装に着替えたみたいだ。
 さっきまで、真衣の心が逃げ出さないように、必死に抱きしめたけれど。
 落ち着いてみたら……かなり、目のやり場に困ってる」

 去年のクリスマスに、このヒトの形を手に入れて以来。

 真衣が僕と視線をあわせてくれなくて寂しかったけれど、今なら、なんとなく、その気持ちが判るかもしれない。

 そんな風に星羅は、言った。

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