僕はショパンに恋をした
シオンが、俺の目の前で倒れたあの日から、一か月が経っていた。

シオンは、倒れた日から三日ほどで退院した。

その間に、朝比奈さんと藤堂さんがお見舞いに来てくれた。

色々と事情を話したけれど、二人は優しくきいてくれた。

リサイタルにも来てくれると、約束してくれた。

退院したシオンと俺は、東京に戻った。

実はシオンの両親と主治医が、東京に来ていたのだ。

リサイタルに向けて、一か月調整をするためだと言った。

「僕が、抜け出したのは、想定外だっただろうけど。」

東京に向う新幹線の中で、くすっとシオンは笑った。

笑い事じゃない。

俺ってもしかして、ちょっとした誘拐犯なんじゃないか?

そう言うと、また笑った。

「ほんとだね。誘拐犯みたいだ!」

脱力しながら、シオンの両親に謝る覚悟を、ひそかに心に決めたのだった。
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