神の森
 
 祐里と別れて森の奥へ分け入りながら、冬樹の胸中は波立っていた。


死んだものと思って忘れていた春樹と小夜が、祐里という娘となって、

突然目前に姿を現した。

神の守は、男子と暗黙のうちに決められていた筈が、神の森が一目で

祐里を認めていた。


 今朝は、神の森が最近では珍しく穏やかな表情を見せていた。


 朝の見まわりで、樹々が青々と潤い、朝露に輝いているのを見るのは

ここ何年もないことだった。


 森からは久しぶりに豊潤な香りが漂い、朝靄に乗って森全体が虹色に

輝いていた。

 神の歌声が澄み切った空気を揮わせて森全体を蔽っていた。


 冬樹は、神の森の声を聞くまでに十年かかった。


 それなのに突然現れた祐里は、その朝から神と対話し、森の表情までも

落ち着かせていた。


 神の森に意見して冬樹を気遣った祐里の優しい手の温もりが

まだ残っている。



(何故にあの娘にそのような力があるのだろう)



 いくら考えても、冬樹には皆目分からなかった。


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