闇に降る雪のように
「理子ちゃんは元気か?」
谷さんが、くちゃくちゃになったマイルドセブンをまたポケットから出した。
「・・・・・・はあ、相変わらずですよ」
俺は、さっきの理子とのやりとりを思い出して苦笑した。
『え~っ!また?あのね今日は普通のデートじゃないのよ』
──わかってる。
今日はただのデートじゃなく結婚式のドレスの下見だよ。
でも仕方ないだろう。
刑事の仕事はいつもこんなだ。事件に待ったなしなんだ。
『私っていったい誰と結婚するんだろう。智也のお母さんとかしら』
電話の向こうで理子が口をとがらせているのがわかる。
結婚式を3ヶ月後に控えた俺たちはその準備を進めていかなければならない。
結婚式がこんなにやることが多いなんて、誰が思っただろう。
きっと経験したものにしかわからない。
でも、その準備が本来なら一番楽しいもののはずで女性にとっては夢のような日々のはずなのに
刑事という仕事に就いている俺の都合で理子は、結婚式の準備のそのほとんどを
俺の母と共に行っており、前の台詞となったのである。