奥さんに、片想い



 課長には『彼の球が捕れたら、結婚を決意しようと思います』、だからミットを買いに行きたいのでつきあって欲しいと告げていた。
 だから千夏の気持ちはもう河野君にあると課長は思いこんでいる。
 でも、そうじゃない。確かに河野君に気持ちが向かっている。それでもずっとずっと何年もこの男性を思ってきた気持ちはそんな簡単に消えない。
 その男性に……望めなかったことを、僕には出来ないことだから、選んだ男にしてもらえと言われているようだった。

 胸が苦しく一瞬だけ締め付ける。
 だけれど、もう、一瞬だけ――。

 千夏は今までの切なさに小さな息をついて目をつむった。
 だけれど直ぐに目を開ける。

「そうですね。たった一人、そんな男性がいてくれたら。それで私も自分を解放したいと思います」
「うん。たったひとりだけいると、全然違うよ」

 いつもの爽やかな笑み。その幸せそうな笑みは、きっと最愛の奥様と強く結ばれているからなのだろうと千夏は思った。








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