奥さんに、片想い



 なによりも『この歳でできたせいか、余計に可愛い』と小さな息子を愛おしむ姿は会社でも評判。

 しかもこの本部に転属してきてから、佐川課長の女の子からの好感度は抜群だった。

 まさかね。十年前は『地味でなんにもない佐川主任』――なんて思っていたけど。

 『化けたなあ』とほんと思う。

 そしてあの美佳子さんは、本当にいい男を見る目があったと痛感する。

 佐川夫妻が結婚した時、美佳子さんのことを地味な男に逃げた女と後ろ指さして勝ち誇っていたことがある。

 でもあの時にはもう――彼女は誰に何を言われても、佐川課長の良さを見極めて惚れ込んでいたのだと今ならわかる。

 男四十、生き様が魅力として滲み出てくる年齢。

 この時、どんなに焦がれても、その男は既に他の女の夫。若い時に見極めた女が勝ち。

 ああ、悔しい。どんなに悔しがっても、当時、ひとつも格好良いだんなんて思わなかったのだから、どう足掻いても千夏の手に届く男性ではなかったのだ。
 
 つまり男を見る目ナシ!

 それどころか、課長はいい大人の男になったと思う。
 結婚してから少しずつお洒落になってきたのも、きっと奥さんの美佳子さんがそうしているのだろう。

 いつもパリッとしているシャツに、その時々に流行っているネクタイをさりげなく選んでいる。

 シャツも本部に来てから急にスタイリッシュになった。
 悪いが昔から同じ支局にいた同僚としては、佐川さん自身にこのセンスがあるとは思えない。絶対に奥さんが揃えている。

 でも似合っている。

(はあー。美佳子さんがそうしているとわかっていても……)

 今の千夏にはいちばんときめく……


「佐川課長、お疲れ様です!!」


 密かに課長と二人きりの時間を和んでいたら、コンサル室の入り口からそんな大声。
 すっかり気を緩めていただけに、千夏の胸は飛び上がるほどびっくり。


「あ、落合主任も!!」


 うわっ。そうだった。今日は彼と課長が約束をしている日。
 またもや千夏は急いで帰り支度をはじめる。




< 87 / 147 >

この作品をシェア

pagetop