亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
信じられない事だが……。
二人の前には、よく知っている男が静かに佇んでいた。
人の良さそうな、素敵な微笑みを浮かべる長身の男。
片目は潰れているが、特に支障は無さそうだ。
しかし二人は本当によく知っている。
この男が、笑顔の裏にどれ程残忍で冷酷な顔を潜めているか。
元第6部隊隊長、グラッゾ隊長。
彼はもう死んだ筈だ。数年前に。
だが何という事か。目の前にいて、しかも襲ってきているではないか。
「女の子にナイフを向けるのもどうかと思います―!!」
『おやおや、イブ。相変わらず貴女は面白いですね。本来低度な知力しか持たないフェーラの貴女が……一体何故そんなに人間に近くなったのか…………………………是非、中を開いてじっくりと見てみたいものだ』
「キモ―――い!!」
悪意なんて皆無な笑顔で、サラリと解剖願望を告白するグラッゾに、ヒステリックな悲鳴を上げるイブ。
『…すみませんね。基本的に意味の無い行為をするのは好きでは無いのですが………私の意思とは無関係に身体が動きますので……』
「―――最悪!!この研究オタク!!」
「……イブ、うるさい。故人だけど…仮にも上司なんだから……」
影であるらしいグラッゾの瞳は、曇り硝子の様に生きた光が無い。
人格はあるが……意思とは無関係に身体が動く。……なんて面倒な。
グラッゾの攻撃は、とにかく避け続けるか……逃げるしかない。
対策の無い今………スタミナのいる、かなりの長期戦となるだろう。