亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「……あっちは大丈夫なのか…?」
キーツは額から流れる血を拭い、ダリルとイブがいる方へと視線を移す。
二人は辛うじて見える位遠くに離れていた。あの辺りだけ、不自然に砂埃が舞っている。時折少女の甲高い悲鳴が聞こえてくる。
「……分かりませんな。お二人を攻めているのは……私の目が狂っていなければ…もう亡くなった筈の隊長クラスの人物の様に見えましたが…………キーツ様、今は余所見などいけませんぞ」
言うや否や、キーツとアレクセイは飛び退いた。
二人のいた場所に、頭上から青白い巨大な手が落ちてきた。
地にめり込んだ後も手は起き上がり、見境無く地表を叩いていく。直径十メートル余りのクレーターがそこら中に出来上がっていく。おかげで足場がこれ以上無い程悪くなってしまった。
散乱する粉塵と岩に混じって、青黒い血液が雨の様に降ってくる。
粘ついたそれは、一度肌に付くと強力な接着剤となり、二人は何度か足を取られた。
剥がれたらしい、飛翔してきたイヨルゴスの厚い指の爪を剣で弾き飛ばすと、剣の切っ先が折れてしまった。
キーツは舌打ちして、折れた剣をイヨルゴスの腕にぶん投げた。
腰にはもう一本、大きめの長い剣があるが……これを使う事に、一瞬躊躇った。
普段は使わないこの剣。
御守りと思って持ってきたが………。
………今は仕方が無い。
キーツはスラリとその剣を抜いた。
青白い刀身以外、どこもかしこも真っ黒な重々しい剣。
ギュッと柄を握り締め、キーツは呟いた。
「―――………………父上…………今だけ……俺に…貸して下さい」
キーツは剣を構えた。