亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
奴はこれで満足するだろうか。
俺をその歯で噛み砕き、唾液を絡め、舌で喉の奥に押し込んで………。
「………そんなのは…御免だな………」
力無く、自嘲的な薄い笑みを浮かべた。
……身体に力が入らない。奴の刃を防ぐ術は無い。考え付かない。この手には何も無い。
………今自分は、ただの人間だ。
兵士だとかそんなものである前に、自分は………この怪物からすれば、ただの人間。
貧弱な、小さな人間。
………今更、そんな当たり前なことを痛感している。
………死を前に、酷く冷静だった。
黒い花吹雪の中で、裂けた口をこれでもかというくらい開けた怪物が見える。
…………ゆっくりと前に倒れ込み、その勢いで地面を荒々しく削りながら、真直ぐこちらに突っ込んでくるのだ。
束縛は解かれない。
パラサイトの枝も、俊敏な奴の身体を貫き損ねた。
奴を止めるものは何一つ無い。
何一つ。
俺を死に、障害は無い。
大きな二つの眼球が、笑いながら俺を見ている。
もう腹も立たない。
今は無駄に、抉れた肩と折れた右足がズキズキと痛むだけだ。
………今から自分を食らう天敵の顔など見たくもない。
半ば朦朧とするぼんやりとした意識の中、キーツは首を前へ垂れて、俯いた。
(………戦士なら…潔く……か……?)
『―――……潔く…?……………それは違います』
―――…何で…?兵士は誇りのために戦うんだろ…?
「………」